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原発フェイドアウト

原発フェイドアウト」、筒井哲郎 著、緑風出版 を読了した。

原発フェイドアウト

原発フェイドアウト

内容

発生より8年が経過した福島第一原発事故の現状を
元プラントエンジニアである著者の視点からまとめている。

事故発生から今日までに行われた原発事故関連の裁判における東電の言い分について技術者の目線から批判しており、設計思想の問題点をついた指摘や、具体的な数値を示した主張が多い。

福島原発事故による避難者、汚染土壌、汚染水への対応が完了していないにも関わらず原発の再起動・推進の方向性を示している東電・政府に対し、筆者は憤りを感じている。

また、筆者自身が実際に訪れた原発関連設備についても記載されている。
原発事故処理プロジェクトの全体像が見えないことに疑問・不安を感じている。

感想

事故から時間がたち、世間の人々の記憶から福島原発のことが薄れていく中で、
本書を通して原発について改めて考えるきっかけが得られて良かったと思う。

私の肌感覚では世の中は原発反対の人が多い印象であったが、2017年の世論調査では反対が53%と、大多数を占めているわけではないようだ。

原発推進派の意見は以下のようなものがある。

  • 日本のエネルギー自給率に貢献する
  • 他国からエネルギーを買わないことによる外交上のメリットがある
  • 二酸化炭素を出さないため、地球温暖化を防ぐクリーンエネルギーである
  • 火力や再生エネルギーと比べて安い

一方、原発反対派の意見は以下のようなものがある。

  • 事故の際の被害が極めて大きい
  • 核廃棄物の処分場所が決まっていない

現状、私は既設の原発含め廃止の方向にもっていくのが良いと思っている。
上記のようなメリットがあるが、他の発電方法に比べてリスクが大きいと感じるのが理由である。
リスク = 事故時の被害の大きさ × 事故が起こる確率 であるが、
いくら事故が起こる確率を減らそうとも、事故時の被害が大きすぎてリスクが許容するレベルに収まりきらないはずである。

また核廃棄物の処分場所が決まっていない問題もある。
技術的に安全な処分方法が確立したとしても、処分場設置を容認してくれる自治体を見つけることは難しいのではないか。
さらに埋め立て後、放射線が自然界のレベルまで減衰にするには10万年かかるとのことで、遠い将来に何が起こるか分からないという不確実性がある。

安いと言われているコストに関しても、ランニングコストに加えて、万全の安全設計を行ったプラント建設費や現在何兆円もかかっている事故処理のためのコストを考えると決して安いとは言えないのではないか。
(本書の中で著者が事故処理費用と原発による推定売上高を比較している)


原発推進にしろ、反対にしろ、まず現状を知ることが大切だと思う。
資源エネルギー庁のHPに原発だけでなく、エネルギー全般に関することがまとめられている。
www.enecho.meti.go.jp

原発事故処理の進捗を知る努力をし、我々庶民が知識をしっかりもって建設的な議論をすることが大事かと思う。

筆者が第6章で以下のように書いている。

日本では、責任者が、「自分は誰かの指示に従えばよいのだ」と思い込んでしまう例が、大組織であるほど顕著に表れてくる。

福島原発事故の処理が難航している背景には、当事者達にこの傾向があることを筆者は指摘している。
(なるほどと思うと同時に、普段自分が会社で働いていてこのような思考に陥りそうになる瞬間が多々あるためドキリとした。)